日本人の多くが子供の頃から刷り込まれてきた「耳掃除はこまめに行うのが美徳」という常識は、現代の耳鼻咽喉科医学においては完全に否定されています。それどころか、ネット上で散見される自己流の民間療法が、取り返しのつかない被害を生んでいる現実があります。
最も警戒すべき誤解は、「耳の奥から汁が出る状態」を市販の皮膚薬で治そうとする行為です。耳の中からサラサラした黄色い浸出液や、粘り気のある膿が出てくるのは、外耳道の皮膚が全層破綻しているか、鼓膜に穴が開いて中耳炎を併発しているサインです。この状態でドラッグストアで購入した一般的な耳の中の湿疹治療薬(特にステロイド軟膏)を自己判断で流し込むと、もし原因が真菌(カビ)であった場合、局所の免疫を奪ってカビの爆発的増殖を許してしまいます。結果として「激痛で救急外来に飛び込む」という最悪のシナリオを招くのです。
また、「耳垢が黄色い・湿っているのは異常だ」という思い込みも根深い誤解の一つです。耳垢の乾湿は遺伝子(ABCC11遺伝子)によって生まれつき決定される生理的特徴であり、湿性耳垢そのものは病気ではありません。湿っているからといって毎日綿棒で吸い取ろうとする行為自体が、外耳炎の慢性化を招く主因となっています。
さらに見過ごせないのが、耳の奥のかゆみの放置リスクです。慢性の外耳炎や真菌症を「たかがかゆみ」と放置し続けると、炎症が骨部外耳道まで波及して皮膚が肥厚し、外耳道が塞がってしまう「外耳道閉鎖症」や、骨を溶かしていく「壊死性外耳道炎」へと進行する恐れがあります。特に糖尿病患者や免疫機能が低下している高齢者の場合、頭蓋底骨髄炎などの生命に関わる重篤な感染症に直結する危険性すら孕んでいます。