「大事な会議があるから」「子どもの世話をしなければならないから」と、ドラッグストアで市販の下痢止め(止瀉薬)を購入して服用することは、感染性胃腸炎において極めて危険な行為です。医療従事者が口を揃えて下痢止めの安易な使用に警鐘を鳴らすのには、明確な病理学的理由があります。
下痢止めが招く「病原体体内鬱滞」の恐怖
下痢や嘔吐という身体反応は、腸管内に侵入・増殖した膨大な数のウイルスや産生された毒素を体外へ一刻も早く洗い流そうとする「生体防御反応」です。ここでロペラミド塩酸塩などの強力な腸管運動抑制剤を服用してしまうと、腸の蠕動運動が強制停止します。
その結果、行き場を失ったウイルスや壊死した細胞毒素が腸内に滞留し続け、腸管内圧の上昇、細菌の異常増殖、最悪の場合は中毒性巨大結腸症や麻痺性イレウス(腸閉塞)といった命に関わる重篤な合併症を引き起こすリスクがあります。病院で処方されるのは、腸の動きを止めずに便の状態を整える整腸剤(耐性乳酸菌製剤など)や、嘔気発作を抑える座薬・点滴による制吐剤が中心です。
迷わず病院を受診すべき「レッドフラッグサイン」
ウイルス性胃腸炎が疑われる場合、成人は内科または消化器内科、子どもは小児科を受診します。ただし、以下の危険兆候(レッドフラッグ)が1つでも認められる場合は、夜間や休日であっても躊躇せず救急外来を受診してください。
- 完全な水分摂取不能:水分を口に含むだけで激しく吐いてしまい、半日以上一滴も飲めない。
- 重度の脱水兆候:成人の場合「半日以上尿が出ない」、乳幼児の場合「泣いても涙が出ない」「おむつが6時間以上濡れない」「大泉門(頭頂部)が陥没している」。
- 血便・激痛:便に血液が混じる、あるいはこれまでに経験のない激しい腹痛が一箇所に持続している。
- 意識レベルの低下:呼びかけに対する反応が鈍い、ろれつが回らない、極度の倦怠感で自力歩行ができない。