定番のあんこやきな粉、大根おろし、くるみ、ごま、みそ。どれも一口大にちぎられた赤ん坊の頬のように柔らかい餅が皿に並ぶ。だが、食通たちが密かに狙うのは、季節の移ろいとともに姿を現す限定フレーバーだ。初夏の新緑を思わせる濃厚な宇治抹茶や、秋の訪れを告げる完熟栗ペーストなど、その時々の気候に合わせた仕立てが施される。甘すぎず、餅本来の米の甘みと粘りを殺さない絶妙な配合は、門外不出の一子相伝だ。
しかし、訪問者を悩ませるのが熾烈な混雑である。崖にせり出すように作られた絶景テラス席「見晴亭」からの眺望は、遥か群馬側の山並みと雲海を見下ろす圧倒的なパノラマ。この特等席を確保するには緻密な計算が要る。現地取材で判明した2026年現在のベストルートは、軽井沢駅からの始発バス、あるいは朝9時前の自家用車アプローチだ。神社の朝拝に合わせて訪れ、午前10時の開店と同時に滑り込むことで、週末でも1時間以上の待ち時間を回避できる。午後は霧が立ち込めて視界が真っ白になる「霧の軽井沢」特有の気候があるため、青空と谷底のグラデーションを眼下に望むなら午前中の澄んだ大気が絶対条件だ。