飲酒事故において、最も泥沼の法的紛争に発展しやすいのが「加害車両に乗っていた同乗者の怪我や死亡」に対する補償です。車内にいた同乗者に対する補償は、人身傷害保険と同乗者の補償や自賠責保険の枠組みから支払われる建前になっていますが、満額がスムーズに支払われることはまずありません。
道路交通法では「酒気帯び運転の車両への同乗罪」(道交法第65条の3)が制定されており、運転者が酒を飲んでいることを知りながら同乗した者も犯罪者として処罰されます。この刑事法上の責任は、民事裁判における損害賠償金算定でも厳罰に直結します。判例上、同乗者が運転者の飲酒を認識していた、あるいは一緒に酒を飲んで車を運転させた場合、飲酒運転同乗者の過失相殺として20%から最大50%に達する賠償金の大幅カットが敢行されます。
たとえば、同乗者が事故によって脊髄損傷などの重度後遺障害を負い、本来であれば1億円の損害賠償や保険金が認められる事案であったとします。しかし「一緒に居酒屋で飲酒し、止めもせずに同乗した」と立証された場合、40%の過失相殺がなされれば、受け取れる保険金は6,000万円まで削り取られます。不足する4,000万円の療養費や逸失利益は、加害者個人に請求するか、同乗者自身の自己負担で賄うしかありません。過失相殺の判断は、居酒屋の領収書、防犯カメラ映像、同乗者自身の供述調書などから極めて精緻に割り出されます。