報道に接した人々が口を揃えて抱く疑問は、「有名人であり、現場の目撃者や防犯カメラ、ドライブレコーダーですぐに特定されると分かっていながら、なぜ逃げてしまったのか」という点に尽きます。事故を起こしたタレントたち自身、後の取り調べや記者会見で「頭が真っ白になった」「大変なことをしてしまった恐怖から逃げ出した」と共通して証言しています。
認知心理学および交通行動学の見地からこの行動を分析すると、人間が突発的な極大ストレスに晒された際に生じる「闘争・逃走反応(Fight or Flight response)」が強く働いていることが分かります。想定外の激しい衝突音や衝撃を受けた脳は、事態を冷静に処理する前頭葉の機能が一時的に低下し、防衛本能としてその場から物理的に距離を置こうとします。
さらに芸能人特有の重圧として、数千万円から数億円規模に及ぶCM違約金、進行中のレギュラー番組や映画の公開中止といった「社会的破滅」のイメージが刹那に脳裏をよぎる構造があります。2020年の事故において伊藤健太郎は、後の特番インタビューや手記のなかで、衝突直後にパニックへ陥り、自分が何をしているのか判断できないまま数十メートル進んでしまった恐怖を告白しています。しかし法的には、パニック状態であったとしても車両を安全な場所に停止させ、負傷者の救護を行わなかった事実は救護義務違反として厳格に裁かれます。
また、吉澤ひとみの事例のように「アルコールの隠蔽工作」が複合していたケースでは、飲酒運転の発覚による刑事責任の加重と社会的生命の即時終了を回避しようとする意図的な保身が作用します。現場から立ち去る行為は、偶発的な混乱だけでなく、現実から目を背けようとする認知的不協和の産物でもあります。