映画のクライマックスである調布のファミレス「ジョナサン」での別れ話。麦は絹に対し、「結婚しよう。恋愛感情がなくなっても、家族として仲良くやっていける夫婦は世の中にたくさんいる」と涙ながらにプロポーズします。
この提案は、日本の伝統的な家族観においては極めて現実的な着地点でした。実際、多くのカップルが恋愛感情の減衰を受け入れ、生活共同体としての「家族」へ移行していきます。麦自身もその妥協案によって絹との関係を繋ぎ止めようと必死でした。
しかし、二人の視線の先に、かつての自分たちと全く同じようにカルチャーを熱っぽく語り合う若い大学生カップルが現れます。お揃いのジャックパーセルを履き、同じ本に興奮する彼らの姿を見た瞬間、麦と絹は決定的な事実に打ちのめされます。
「自分たちが手にしていたものは、かつてあんなにも眩しく、特別だった」。その奇跡のような輝きを知っているからこそ、それを惰性や妥協の結婚によって色褪せさせることに耐えられなかったのです。二人が流した大粒の涙は、相手への憎しみではなく、かけがえのない青春と最高だった自分たちへの惜別でした。