楽曲の芸術的な完成度だけでなく、実際のマーケットにおいてこのCMソングが果たした経済的・文化的役割は計り知れません。酒類業界の公表データによると、国内ウイスキーの課税数量は1983年をピークに長期下落を続け、2007年にはピーク時の約5分の1にまで落ち込んでいました。若者のウイスキー離れは深刻を極めていたのです。
そのどん底の市場を救ったのが、小雪を起用した「ウイスキーがお好きでしょ」×「角ハイボール」のキャンペーンでした。SNSや大手掲示板、知恵袋などに蓄積された当時のリアルな消費者の声を検証すると、以下のようなパラダイムシフトが起きていたことが分かります。
- 「居酒屋でウイスキーを頼むのが恥ずかしくなくなった」(30代男性・会社員):これまでビール一辺倒だった宴席で、「とりあえず角ハイ」と頼むカルチャーが完全に定着した。
- 「井川遥さんのようなバーテンダーに注いでもらいたい」(40代男性):哀愁漂う中年男性にとって、家庭でも職場でもない「無条件で受け入れてくれる聖域」としてのCM世界観が強力なバイラルを生んだ。
- 「唐揚げとハイボール(ハイカラ)という食べ合わせの妙」:バーの高級酒という固定観念を壊し、庶民的な居酒屋飯と結びつけたことで、若年層や女性層への裾野が一気に広がった。
サントリーは単に商品を宣伝したのではなく、「ウイスキーがお好きでしょ」というメロディとともに、「疲れた日常をリセットする幸福な時間」という体験を売ったと言えます。