発達障害の遺伝は母親のせい?最新研究が明かす確率の真相と誤解

発達障害の遺伝は母親のせい?最新研究が明かす確率の真相と誤解

発達障害の遺伝は母親のせい?最新研究が明かす確率の真相と誤解についての疑問解決ガイドをご紹介します。

「発達障害の遺伝は母親の影響が大きい」という言説がネットコミュニティや親族間で囁かれる背景には、根拠の乏しいバイアスと情報の曲解が存在します。結論から言えば、現代の小児神経科および精神医学において、母親側の遺伝子だけが発達障害の決定要因になるという科学的根拠は完全に否定されています。

では、なぜ母親由来説がこれほど執拗に語り継がれるのでしょうか。原因の一つは、性染色体(X染色体)に関連する遺伝疾患のイメージが乱暴に拡張された点にあります。男児は母親から1本のX染色体を受け継ぐため、X連鎖性遺伝疾患の一部は母親が保因者となります。しかし、自閉スペクトラム症やADHDは単一の遺伝子異常による病気ではなく、常染色体上に分散する数百から数千の微小な遺伝的変異が関与する「多因子遺伝」です。性染色体だけに原因を求める議論は医学的に破綻しています。

さらに臨床の現場では、「父親と母親のどっちから遺伝しやすいのか」という問いが頻繁に投げかけられます。大規模なゲノムワイド関連解析(GWAS)のデータを参照しても、母方由来の遺伝的変異と父方由来の変異で寄与度に有意な偏りがあるという確固たるデータは得られていません。むしろ近年の分子遺伝学では、精子形成時の細胞分裂回数の多さに起因する「父親の高年齢化と新規突然変異(de novo変異)の増加リスク」が注目されるなど、父親側の生物学的要因も等しく研究対象となっています。両親のどちらか一方のみを「原因」と指さす行為は、非科学的な断定に他なりません。

池田 達也
著者

池田 達也

Webメディアでの編集・執筆歴10年。読者の好奇心を刺激するストーリー作りを心がけています。