日本全国津々浦々の温泉街に存在する茶褐色の温泉まんじゅう。その歴史を紐解くと、明治43年(1910年)の伊香保温泉に行き着きます。当時、伊香保で和菓子店を開いた「勝月堂」の創業者・半田勝三氏が、伊香保特有の鉄分を多く含む茶褐色の源泉「黄金の湯(こがねのゆ)」の湯の色をモチーフに考案したのが、湯の花まんじゅうの起源とされています。
当時、黒糖を練り込んだ生地で餡を包み、立ち込める温泉蒸気を利用して蒸し上げる製法は「茶湯蒸し(ちゃゆむし)」と呼ばれ、湯治客の間で瞬く間に評判となりました。群馬県立文書館の郷土資料や当時の記録によると、昭和9年(1934年)に群馬県内で行われた陸軍特別大演習の際、昭和天皇への献上品として選定されたことでその名声は決定的なものとなりました。この栄誉が全国の温泉地へと知れ渡り、「温泉地の土産=茶色い蒸し饅頭」という文化が日本中に定着していったのです。
勝月堂が110年以上にわたり頑なに守り続けているのは、早朝から職人が粉をこね、手作業で餡を包み、大釜のせいろで一気に蒸し上げる伝統の手法です。保存料や余計な添加物を一切使用しないため、大量生産はできません。石段街を登りつめた者だけが出合える湯気と温もりは、単なる和菓子の領域を超えた文化遺産としての価値を帯びています。