日本語学の権威として知られる金田一秀穂氏は、テレビ番組や著書の中で、こうした言葉の変化について極めて示唆に富む見解をたびたび述べている。
言語の歴史を紐解けば、かつての「誤用」や「誤読」が定着して標準語になった例は枚挙にいとまがない。「新しい(あたらしい)」が本来「あらたし」だったことや、「山茶花(さざんか)」が「さんざか」の音位転倒から生まれたように、誤読は言語進化の主要なエンジンのひとつなのだ。
金田一氏は、言葉の最も重要な役割は「相手に正確に伝わること」であると説く。「ひとごと」と口頭で発した際、聞き手が「一事(ひとごと)?」「人事(じんじ)?」と一瞬迷う可能性があるのに対し、「たにんごと」という響きは文脈の誤解を完全に排除する明確さを持っている。誤読から生まれた言葉が支持を集める背景には、コミュニケーションの明瞭さを求める人間心理の合理性が働いているのだ。