長年にわたり、ネットコミュニティ(X、5ちゃんねる、Yahoo!知恵袋など)において「ドラえもんの最も怖いトラウマ回」というスレッドが立つたび、必ず最上位に名前が挙がるのがこのエピソードです。なぜ、暴力的な描写やモンスターが登場するわけでもない日常回が、これほどまでに人々の心に深い爪痕を残したのでしょうか。
テレビアニメ版の演出史を振り返ると、その理由は一層鮮明になります。1979年のテレビ朝日系初期放送回(大山のぶ代版)では、のび太の部屋を埋め尽くす栗まんじゅうの山と、ドラえもんが放つ「食べきれないなら宇宙へ捨てるしかない」という張り詰めた空気感が、幼少期の視聴者を震撼させました。さらに2008年にリメイクされた水田わさび版のアニメ放送回では、漆黒の宇宙空間を一人ぼっちで飛んでいくロケットの中で、不気味な心音のようなSEとともに「ポンッ……ポンッ……」と無音の宇宙で倍増し続ける栗まんじゅうの姿が描かれ、エンドロールを迎えます。
当時の放送を目撃した視聴者からは、現在もリアルな声が多数寄せられています。
「子どもの頃、給食を残そうとしたときに『これも増えたら地球が滅亡するのではないか』と本気で恐怖した」(30代男性・会社員)
「ラストシーンで暗黒の宇宙に浮かぶ栗まんじゅうが2個、4個と増えていく映像を見た瞬間、背筋が凍りついて夜眠れなくなった」(20代女性・デザイナー)
「ドラえもんが笑顔で『宇宙へ捨てたから安心』と言っている横で、視聴者だけが『いや、何も解決していない』と気づかされる絶望の演出が秀逸すぎる」(40代男性・エンジニア)
主人公たちが難を逃れてホッとしている背後で、確実に世界の滅亡へ向けたカウントダウンが始まっている。この物語の枠組みから逃げ場のない「認知的不協和」と「不条理ホラーの構造」こそが、世代を超えてトラウマと呼ばれる最大の理由です。