街を歩けば、どこに行っても外国人旅行者の姿が目に入る。日本政府観光局が発表する統計グラフは右肩上がりの数字を誇らしげに示しているが、数字の羅列からは旅行者の吐息までは聞こえてこない。真のインバウンド観光の実像は、名所旧跡の入場者数ではなく、コンビニの片隅や路地裏の居酒屋で生まれている。
「パンドラの憂鬱」で取り上げられるトピックの多くは、ガイドブックには載らない些細な光景だ。自販機の温かい缶コーヒーに救われた体験、深夜の街を一人で歩ける安心感、スーパーマーケットの惣菜コーナーの異様な充実ぶり。そうしたミクロな体験談こそが、生きた国際文化交流の証拠として読者の心に刺さる。観光プロモーションが作り上げた虚飾のない、生活の現場に対するリアルな評価がここにある。