ネット上やSNSで囁かれる「呼子に行ってもイカがない」という噂について、結論から述べれば、一時期の危機的品薄からは脱却しつつあるものの、漁獲量そのものが過去のピーク水準に戻ったわけではありません。佐賀県玄海水産振興センターなどの定点観測データによると、玄界灘沿岸におけるケンサキイカの水揚げ量は、2010年代半ばと比較して年によっては30%〜40%近く落ち込む局面が観測されてきました。
この呼子イカ不漁の理由には、単なる一時的な天候不順にとどまらない構造的な要因が絡み合っています。第一に挙げられるのが、日本海および対馬暖流水域における記録的な海水温の上昇です。イカの稚仔(稚イカ)が孵化・成育する適水温は極めてデリケートであり、沿岸部の水温が平年より1.5〜2.0℃高い状態が常態化したことで、産卵場の水深や回遊ルートが大幅に沖合かつ北側へシフトしました。さらに、黒潮や対馬暖流の蛇行、沿岸部の「磯焼け」に伴う海藻類の減少が、稚イカの餌となるプランクトンの生態系バランスを揺さぶっています。
これに対し、現地の料理店や漁協は手をこまねいていたわけではありません。2026年現在、呼子の各飲食店は呼子港で水揚げされた活イカを最優先で確保しつつ、近隣の平戸や壱岐、対馬といった同一海域の提携漁協から専用活魚車で迅速に移送する強固なネットワークを構築しました。これにより、「店に入ったのに看板メニューが完全に売り切れていた」という事態は最小限に抑えられています。ただし、漁獲コストや特殊な冷却水槽トラックの維持費が上乗せされ、活き造り定食の相場は数年前に比べて1人前あたり3,800円〜4,500円前後へとシフトしているのが現実です。