ネット上や一部の報道では「まだ使える球場をなぜ壊すのか」という疑問の声が散見されます。しかし、球場運営の実態と建築工学的な視点に立つと、建て替えを選択せざるを得ない切実な理由が浮かび上がってきます。
最大の要因は築100年を迎えた構造体の物理的老朽化です。神宮球場は過去に何度も増改築や耐震補強工事を重ねてきましたが、コンクリートの中性化や鉄骨の腐食は年々進行しています。また、観客席の通路が狭く急勾配であること、車椅子席や多機能トイレなどのバリアフリー設備を現行基準まで増設するスペースが構造上確保できないこと、選手やスタッフのロッカールームおよびバックヤードが極めて手狭であることなど、現代のプロスポーツ興行や大規模避難施設としての基準を満たすには限界を迎えていました。
もう一つの決定的な理由は、土地を所有する宗教法人明治神宮の「内苑(代々木)の森を永久に維持するための財政基盤」という側面です。明治神宮の内苑は国の税金を使わず、外苑の施設運用益(神宮球場やゴルフ練習場、バッティングドームなどの収益)によって維持・管理されています。老朽化による維持修繕コストの増大は宗教法人の財政を圧迫しており、民間活力を導入して外苑地区全体の収益性と防災性を高めることが、明治神宮の森を次世代へ残すための現実的な選択肢となった経緯があります。