ヴォルフガングの才能を誰よりも早く見抜き、英才教育を施した父レオポルト・モーツァルト。だが、その存在は彼にとって絶対的な道標であると同時に、終生逃れられない重圧でもあった。研究者によれば、彼が晩年に手がけた歌劇『魔笛』の背後には、父との断絶と和解への強い望みが投影されているという。
夜の女王の苛烈なアリアや夜明けを象徴する明るいハーモニー。それらは単なる民話劇の枠を超え、厳父からの自立を果たそうともがいた一人の人間の葛藤のドラマでもあった。死の直前に完成したこの傑作には、父の陰影を振り払おうとする彼の最後の魂の叫びが刻まれていたのだ。