ネット上の考察やライト層の間では、いくつかの基礎的な誤解が流布しています。その代表格が「ATフィールドはエヴァや使徒だけが持つ特殊能力であり、人間には存在しない」という解釈ですが、これは明白な誤りです。
碇ゲンドウやゼーレが進めた人類補完計画の核心は、まさにこの防壁の消滅にあります。人間が不完全であり、互いに傷つけ合い、孤独に苛まれるのは個別の肉体と心(ATフィールド)を持っているからであるという前提に基づき、全人類の心の壁を一斉に取り払おうとした試みが補完計画です。
劇中で展開されたアンチATフィールドとは、個の境界線を強制的に中和・反転させる光です。旧劇場版『Air/まごころを、君に』において、巨大化した綾波レイ(リリス)がアンチATフィールドを地球規模で解き放った瞬間、すべての人類は自らの身体を維持する境界線を失い、液体状の生命の源である「L.C.L.」へと溶け崩れました。
つまり、人間にとってATフィールドとは「他者と自分を隔てて傷つく原因」であると同時に、「たったひとつの個として存在する誇りと命の証」そのものです。シンジが最終的に補完を拒絶し、「他人がいて、傷つけ合っても、もう一度会いたい」と願った選択は、自らのATフィールドを取り戻し、不完全な個として生きていく決断の表明でした。