北穂高小屋に至る登山ルートは、どの方面からアプローチしても本格的な岩稜歩行が求められます。一般的なメインルートは上高地から横尾、涸沢カールを経由して登る「南稜ルート」です。
涸沢ヒュッテ・涸沢小屋を出発すると、すぐに傾斜のきついガレ場と岩壁に取り付きます。コースタイムは約3時間ですが、標高差約800メートルを一気に登り詰めるため、心肺機能と筋力への負荷は甚大です。ルート上には複数の鎖場や鉄ハシゴが連続し、ペンキマーク(〇や×)を正確に追うルーティング技術と、確実な三点支持が求められます。
長野県警山岳遭難救助隊の統計でも指摘されている通り、南稜ルートにおける最大の脅威はスリップ滑落と落石事故です。自分が石を落とさない配慮はもちろん、上部登山者が誘発した落石に対する警戒が常に欠かせません。ヘルメットの着用は現在、実質的な必須装備となっています。
さらに、北穂高小屋から槍ヶ岳方面へ抜ける「大キレット」や、奥穂高岳へ続く「涸沢岳・北穂高岳縦走路」は、国内一般登山道で最高難度に指定されるエキスパートゾーンです。垂直に近い岩壁の下り、「長谷川ピーク」や「飛騨泣き」といった高度感あふれる難所が続き、一瞬のミスが命取りになります。十分な岩登り経験と揺るぎない体力を備えた登山者のみが足を踏み入れるべき領域です。