日本国内のネット言説において最も広く信じられている誤解が、「中国政府は知財侵害を放置・推奨している」「中国の裁判所に行っても外国企業は絶対に勝てない」という固定観念です。かつてはそうした実態も確かに存在しましたが、近年の実情は大きく変貌しています。
その背景にあるのが、中国著作権法改正と影響、そして特許法・商標法の相次ぐ抜本的改定です。2020年から2021年にかけて成立した一連の法改正では、悪質な侵害に対する「懲罰的損害賠償制度」が正式に導入され、証拠提出を拒む侵害者に対する挙証責任の転換など、欧米主要国に匹敵する厳しい条文が盛り込まれました。
なぜ中国当局はこれほど急速に知財保護を強化したのでしょうか。その理由は、外国からの外圧に屈したからではありません。DJI(ドローン)、ファーウェイ(通信・端末)、CATL(車載バッテリー)、miHoYo(ゲーム開発)など、世界市場をリードする巨大テック企業が自国内で次々と誕生したからです。模倣を放置すれば、今や「自国のトップ企業が開発した最先端技術やオリジナルIPが新興の中国企業にパクられる」という国内産業の自爆現象が起きる段階に突入したのです。
現在、北京・上海・広州などに設置された知的財産専門裁判所では、外国企業が原告となった場合の勝訴率が8割を超えているとの統計データも存在します。つまり、「中国は無法地帯だから訴訟しても無駄」と決めつけること自体が、現代のビジネス戦略においては致命的な誤解となり得ます。自社の権利を正規の手順で迅速に登録し、毅然と法的手続きを取る企業には、法が機能する土壌が確実に形成されつつあります。
【プロの結論】対中ビジネス・製品購入で見極めるべきリスクと判断基準
企業が中国市場へ関与する場合、あるいは個人がグローバルECを通じて製品を購入する場合、どのような基準でリスクを判断すべきでしょうか。知財管理の観点から、明確な適否基準を提示します。
【対中ビジネスで成功できる企業・リスクを回避できる条件】
- 進出構想の段階で防護標章を出願している:現地法人設立や製品発表より前に、関連する類似カテゴリまで網羅的に商標・意匠を出願・登録するコストを初期投資と割り切れる組織。
- 現地法務に精通したパートナーを確保している:悪意の先取り出願を発見した際、早期に異議申し立てや無効審判を仕掛けられる実務網を持つ企業。
- コア技術のブラックボックス化ができている:特許公開による模倣を防ぐため、重要アルゴリズムや配合比率を営業秘密として厳重管理できる体制。
【対中ビジネスで大打撃を受ける・慎重になるべき組織の条件】
- 「日本で有名だから大丈夫」と過信している:世界的な知名度があっても、中国国内での登録がなければ保護されない現実を軽視する企業。
- 知財出願のコストを削ろうとする:単一カテゴリの登録だけで済ませ、周辺商品や類似商標の防護を怠る組織。
- 模倣品を発見しても警告書の送付だけで放置する:迅速な行政差押えや訴訟提起を行わず、相手方に資本蓄積と市場制圧の時間的猶予を与えてしまう企業。