ネット上の掲示板やSNSでは「針を火で消毒して刺したら膿が出てすっきりした」という体験談が散見されます。患部が風船のように張り裂けそうになっているとき、内部に充満した膿を物理的に外へ逃がせば、内圧が下がって足の親指の腫れとズキズキ痛が一時的に軽減するのは物理現象として事実です。しかし、これが危険な落とし穴となります。
医療従事者が行う排膿(切開排膿)は、厳密に滅菌された器具を用い、適切な切開創の深さと方向を計算した上で行われます。これに対して、家庭用の裁縫針や安全ピンをライターの火であぶる程度の処置では、完全な滅菌は不可能です。それどころか、加熱によって生じた煤(すす)や器具の金属微粒子が創部に入り込み、異物反応を引き起こすリスクすら生じます。
さらに見過ごせないのが、針で膿を出す危険性の本質である「感染の深部波及」です。親指の爪周囲は解剖学的に皮膚が薄く、すぐ下には腱や骨膜が存在します。素人が不適切な角度と力加減で針を刺すと、膿に含まれる黄色ブドウ球菌や緑膿菌などの病原菌を、バリア機能が壊れた皮下組織の奥深くへと注射器のように押し込んでしまいます。その結果、翌日には足の甲や足首まで赤く腫れ上がり、立っていることすら困難な事態へ発展する事例が臨床現場で頻繁に報告されています。