映画『クレヨンしんちゃん』シリーズにおいて、野原ひろしは単なるコメディリリーフではなく、大人たちの涙腺を崩壊させる数々の名場面を生み出してきました。その頂点に位置するのが、2001年公開の『嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』と、2014年公開の『ガチンコ! 逆襲のロボとーちゃん』です。
『オトナ帝国』における「ひろしの回想」は、日本アニメ史上に残る屈指のシークエンスとして知られています。自らの父の背中に乗っていた少年時代から、上京、就職、挫折、みさえとの出会い、しんのすけの誕生、そして足の臭いサラリーマンになるまでの人生絵巻。そこで放たれた「俺の人生はつまらなくなんかない!家族のいる幸せを、あんた達にも分けてやりたいぐらいだ!」という魂の叫びは、藤原さんの哀愁を帯びた声だからこそ観客の胸を激しく揺さぶりました。
そして藤原さんが劇場版でひろしとして主演級の熱演を見せた最後の金字塔が、『ロボとーちゃん』です。自らを本物の父親だと信じるロボットのひろしと、生身のひろし。終盤、崩壊しかけるロボとーちゃんがしんのすけと腕相撲を交わす場面の台詞は、涙なしに見ることはできません。
「しんのすけ…お前、デカくなったな…」
「押し通すのが…父親の意地ってもんだろ!」
藤原さんはこの過酷な二役の掛け合いを、喉を削るような鬼気迫る熱量で演じ切りました。当時すでに体調の変化と向き合っていたのではないかと推察される時期でもあり、現場スタッフの間では「藤原さんの役者魂がフィルムに焼き付いている」と語り継がれています。