皮膚の最外層にあるわずか0.02ミリメートルの角層は、外界の異物から生体を守る強固なシールドです。しかし、このシールドが何らかの理由で乱れると、通常は真皮層にとどまっている感覚神経(C線維)が表皮のすぐ下まで伸びてきます。この状態になると、わずかな髪の毛の接触や衣類の擦れ、気温の変化といった軽微な刺激すら、脳は「強い痒み」として認識してしまいます。
皮膚科専門医への取材によると、突発的な痒みを訴えるケースの約65%が、複数の内的・外的要因の複合連鎖によって引き起こされています。
第一に挙げられるのが、乾燥肌によるバリア機能の破綻です。皮脂分泌量の低下や細胞間脂質(セラミドなど)の減少により角層がめくれ上がり、水分が蒸発して乾燥性湿疹の引き金となります。特に湿度が40%を下回る環境下では、皮膚の水分保持能力が急激に低下し、無防備な状態へと追い込まれます。
第二は、花粉や環境微小粒子によるアレルギー反応です。近年の気象動向に伴い、春先のスギ・ヒノキだけでなく、イネ科やブタクサ、黄砂やPM2.5が肌に付着することで、免疫細胞であるマスト細胞からヒスタミンが大量に遊離します。「昨日までは平気だったのに、外出から戻った瞬間に痒くなった」という現象の多くは、このIgE抗体を介した即時型アレルギーや、バリアの隙間からアレルゲンが侵入したことによる局所炎症です。
そして第三が、化粧品や金属、外用薬に対する接触性皮膚炎(いわゆるかぶれ)です。これには刺激性接触皮膚炎とアレルギー性接触皮膚炎の2種類があり、特に後者は過去に何度も使っていた成分に対して突然感作が成立し、ある日を境に激しい拒絶反応を示す特徴を持っています。