なぜ昼間はあんなに鮮明に撮れるスマートフォンが、夜になると急激に描写力を失ってしまうのか。その答えは、スマートフォンのカメラが持つ「物理的な受光限界」と、それを補おうとする「ソフトウェアの過剰介入」にあります。
まず、写真がブレたり輪郭がぼやけたりする最大の原因は、カメラが暗闇で光をかき集めようとしてシャッタースピードを極端に遅くする点にあります。昼間であれば1/1000秒という一瞬でシャッターが切れますが、照度が極端に低い夜間では、カメラは自動的に1/4秒〜1秒、場合によっては数秒間にわたってシャッターを開き続けます。この間、手持ちのわずかな呼吸や指先の震えがすべて光の軌跡としてセンサーに記録されてしまい、結果として全体が油絵のように溶けた不鮮明な写真になってしまうのです。
さらに深刻なのが「白飛び」と「ザラつき(デジタルノイズ)」の発生です。夜景写真家の中村勇太氏が各種メディアで指摘している通り、一般的なスマートフォンの自動露出システムは、画面全体の平均照度を「昼間のような適度な明るさ」に引き上げようと計算します。その結果、本来は黒く沈んでいるべき夜空やビルの影を無理やり明るく持ち上げ、その代償として増幅回路による粗いカラーノイズが画面全体を覆い尽くします。同時に、最初から十分な明るさを持っていたネオンサインや街灯の光は許容量を超えてしまい、階調情報が完全に失われた「真っ白な光の塊」へと破綻してしまうのです。