同潤会アパートの特異性は、完成時だけでなく「解体前の20〜30年間」に放った圧倒的な文化的磁力にもあります。
昭和後期から平成初期にかけて、高齢化とともに空室が増加した青山アパートなどには、安価な賃料と独特のレトロモダンな雰囲気に惹かれた若手アーティスト、ギャラリスト、ファッションデザイナー、古書店主たちが次々と移り住みました。当時の雑誌取材や退去時の住民手記には、次のような生々しい回顧が記録されています。
「薄暗い階段室の匂い、手すりの磨かれた木肌のぬくもり。配管の水漏れに悩みながらも、中庭を抜ける風の心地よさは代えがたいものがあった」「老いた昔からの住人と、夜遅くまで創作に没頭する若いクリエイターが、同じ中庭で挨拶を交わす不思議な共生関係がそこにはあった」
表参道のメインストリートに面しながら、一歩敷地に足を踏み入れると静謐な時間の流れる迷宮のような空間。建物全体が巨大な文化的サロンとして機能していたこの時期の記憶こそが、解体反対運動の熱波を生み、今なお語り継がれる「同潤会ノスタルジー」の決定的な源泉となりました。