「気になって無意識に触ってしまう」「白いものが少し見えたのでピンセットで突いてしまった」――外来を訪れる重症患者の問診票には、決まってこのような自己処置の告白が並びます。ネット上では角栓抜き動画などの影響もあり、自力での圧出を試みる人が後を絶ちませんが、粉瘤潰すとどうなるのか、その先には凄惨な臨床的結末が待っています。
皮膚の表面から強い圧力を加えると、角質が詰まった開口部から外へ中身が出るのではなく、皮下の薄い嚢腫壁が内部で耐えきれずに破裂します。何カ月、何年もかけて密閉空間に蓄積された垢や皮脂、細菌が真皮や皮下脂肪層へ一気に飛散すると、生体はこれを危険な異物と認識し、劇症的な異物肉芽腫反応と急性感染症を引き起こします。これが、皮膚科医が最も警戒する炎症性粉瘤激痛のメカニズムです。
患者の手記や臨床報告では、「患部が赤紫色に腫れ上がり、脈打つような激痛で一晩中眠れなかった」「衣類が触れるだけで飛び上がるほどの激痛が走った」という壮絶な声が記録されています。この段階になると、局所麻酔薬を注入しようにも組織のpHが酸性に傾いているため麻酔が極めて効きにくく、処置そのものが耐えがたい苦痛を伴うことになります。
また、破裂時に部屋中に充満する異臭トラブルも無視できません。粉瘤臭い理由は、嚢腫内に長期間にわたって密閉されていた剥脱上皮(ケラチン)が、皮膚の常在菌であるプロピオニバクテリウムや嫌気性菌によって嫌気性分解され、酪酸やプロピオン酸、硫化水素などの悪臭物質へと変質するためです。銀杏の腐敗臭や使い古した雑巾、酸化したチーズに例えられるこの悪臭は、自力で圧出を試みて衣類や指先に付着した場合、通常の石鹸洗浄では数日間にわたって落ちないほどの強い付着性を持っています。