生命の生死を司るシシ神が歩み、コダマたちがカタカタと首を鳴らす「シシ神の森」。その圧倒的な造形美の核となっているのが、屋久島北部を流れる宮之浦川の支流に位置する白谷雲水峡(しらたにうんすいきょう)です。標高600〜1,050メートルに広がる約424ヘクタールの森林レクリエーション地区内には、通称「苔むす森(旧称:もののけ姫の森)」と呼ばれる一画が存在します。
現場に立つと、年間降雨量が平野部の数倍に達する屋久島特有の雨と濃霧によって、倒木や花崗岩の岩塊までもが数百種類に及ぶ苔類に覆い尽くされています。男鹿和雄氏らが描いた、絵の具の緑を何層も塗り重ねた美術ボードの質感は、この白谷雲水峡の湿度そのものです。
しかし、スクリーンの描写を細部まで観察すると、屋久島には自生しない植物が巧みに織り込まれていることに気づかされます。それが白神山地の象徴であるブナの木です。白神山地のブナ原生林は、下草が比較的すっきりと刈り払われたかのような見通しの良さと、独特の白い木肌、そして秋には黄金色に輝く林冠が特徴です。美術陣は、足元の苔や根のうねりを屋久島から採りつつ、天に向かって整然と伸びる森のスケール感や歩きやすさを白神山地から借用しました。異なる気候区の自然美を一つに溶け合わせることで、現世には存在し得ない「神域の森」を現出させたのです。