行政が公表する江東区ハザードマップの最新データを確認すると、一般に恐れられている「津波」と、現実に最も警戒すべき「水害」の性質の違いが明確に浮かび上がります。
まず津波に関して、東京都の想定する元禄型関東地震クラス(マグニチュード8.2)が発生した場合でも、東京湾の湾口(浦賀水道)が狭い構造になっているため、外洋からの津波エネルギーは大幅に減衰します。江東区沿岸に到達する津波の高さは最大でも2.5メートル前後と予測されており、標高が確保されている臨海副都心エリアの居住フロアが津波によって直接押し流される危険性は極めて限定的です。
真の脅威となるのは、超大型台風が満潮時に直撃した際に発生する江東区における津波・高潮の複合被害想定です。高潮によって海面が急上昇した場合、堅牢な防潮堤の外側に位置する港湾作業地区や、内陸の低地部が広範囲に浸水する危険性があります。江東5区(墨田・江東・足立・葛飾・江戸川)が策定した広域避難計画では、大規模水害時に約250万人規模の住民が避難を迫られる事態を想定しており、区外への早期垂直避難が呼びかけられています。
また、安全性という文脈では環境面のリスク管理も無視できません。移転時に大きな議論を呼んだ豊洲市場の土壌汚染対策では、過去のガス工場由来のベンゼンやシアン化合物に対し、約4メートルに及ぶ大規模な盛り土工事、地下水管理システムの常時稼働、不透水層への遮水壁設置といった徹底的な工学的封じ込めが実施されました。専門家会議による継続的な環境モニタリング調査においても、地上空間および周辺環境の安全基準は長期にわたり達成されており、適切な維持管理が機能している限り、健康被害を過度に恐れる科学的根拠はありません。