ハバネロやハラペーニョといった激辛唐辛子を食べたときの「舌が焼けるような痛覚」と、涙巻きを食べたときの「頭蓋骨を突き抜けるような衝撃」は、生化学的に全く異なる現象である。涙巻きが強烈に辛い理由の核心は、アブラナ科植物特有の辛味成分「アリルイソチオシアネート(芥子油)」にある。
本わさびの根茎や茎の細胞内には、配糖体である「シニグリン」と酵素「ミロシナーゼ」が別々に格納されている。これがすりおろされたり細かく刻まれたりして細胞壁が破壊された瞬間、両者が化学反応を起こし、気化しやすい揮発性アリルイソチオシアネートへと劇的に変化する。噛み砕いた酢飯とともに口腔内の温度で温められたこの成分は、瞬時に気体となって上咽頭から鼻腔へと駆け上がる。
鼻の奥に存在するTRPA1(トリップ・エーワン)受容体がこの揮発ガスを感知すると、脳は異物の侵入と判断して三叉神経を介し、異物を洗い流すための防衛反応を発動させる。これが、本人の意思とは無関係に眼球から大量の涙が噴き出し、鼻水が止まらなくなる科学的真相だ。唐辛子のカプサイシンが胃腸に達しても長時間痛みを引きずるのに対し、わさびの気化ガスは数秒から十数秒でスッと引き、後味に爽快な清涼感だけを残す点に本質的な違いがある。