嫌儲思想を巡る議論において最も多い誤解は、「嫌儲民は生活に困窮した人間が、裕福なインフルエンサーを妬んでいるだけの嫉妬集団にすぎない」という短絡的なレッテル貼りです。確かに、ネットの片隅で他人の炎上や失敗を願うルサンチマンを抱えた攻撃者が存在することは事実ですが、それだけで嫌儲という現象の全体像を捉えることはできません。
見落とされがちな盲点として、嫌儲運動が結果的に日本のWeb倫理や法規制の進化を促してきたという歴史的事実があります。2010年代初頭、多くの企業やPR代理店は「ステマは法的にグレーだから問題ない」と開き直り、消費者を欺くステルスプロモーションを組織的に行っていました。これを執拗に監視し、コードの改ざんや不自然な提灯記事を特定して白日の下に晒し続けたのは、他ならぬ嫌儲板を中心とするネットユーザーたちでした。
こうしたネット世論の強い反発と告発の蓄積が、大手メディアの取材を呼び起こし、最終的には2023年10月に施行された景品表示法違反(ステマ規制告示)という法改正への大きな原動力となりました。また、まとめサイトの無法なコピペ行為に対しても、ドワンゴや主要ゲーム会社が著作権侵害としてのガイドライン策定を進めた背景には、炎上を恐れるプラットフォーム側のリスク回避姿勢がありました。嫌儲思想が掲げた「公正性の追求」という旗印は、無法地帯だったインターネット空間に自浄作用をもたらす一翼を担っていた側面があるのです。