短距離走の指導現場には、今なお科学的根拠を欠いた都市伝説が根強く残っています。インターネットや保護者仲間の間で拡散されている情報の中には、子どもの走りをかえって遅くしてしまう深刻な誤解が少なくありません。
その筆頭が「ももを高く上げれば足が速くなる」という盲信です。体育のウォーミングアップで定番の「もも上げ運動」ですが、走っている最中に意識的にももを高く引き上げようとすると、骨盤が後傾し、重心が後ろに残ってしまいます。トップアスリートの膝が高く上がって見えるのは、地面からの強烈な反発によって脚が自然に前へ跳ね返っている結果(シザース動作)であり、意図的に持ち上げているわけではありません。小学生足が速くなる走り方のコツの本質は、足を上げることではなく、「接地した足を素早く体の下へ回収するスピード」にあります。
もう一つの知られざる落とし穴が「靴のサイズ選びとアウトソールの構造」です。「すぐに足が大きくなるから」と1〜1.5センチも大きめのスニーカーを履かせているケースが散見されますが、靴の中で足が滑ると指先で踏ん張りが利かず、蹴り出しの力が完全に逃げてしまいます。走るための靴は、つま先に0.5センチ程度の適度な余裕があり、かかと周りが硬くホールドされたモデルでなければなりません。
また、クッション性が高すぎる厚底スニーカーは日常の足腰への衝撃を和らげる反面、地面からの反発力を吸収して推進力を殺してしまう側面があります。短距離測定においては、適度なソール剛性と軽量性を備えたシューズを選択するだけで、0.2秒前後のタイム差が生じることは運動生理学の観点からも実証されています。