直木賞作家としての重厚なイメージを鮮やかに更新したのが、本屋大賞にもノミネートされベストセラーとなった『君のクイズ』です。クイズ番組の決勝戦において、対戦相手が「問題が1文字も読まれない状態(ゼロ文字押し)」で正解を答えたという不可解な謎を巡る、究極の知的エンターテインメントです。
読者がこの作品に引き込まれる理由は、競技クイズという特殊な世界の解像度の高さだけではありません。主人公の思考プロセスを丹念に追いながら、「人間が記憶を想起するとはどういうことか」「知っているという状態は何を意味するのか」という認識論の深淵へと読者を誘う点にあります。
短編の名手としても名高い小川氏は、時間軸を自在に操る短編集『嘘と正典』や、ハードボイルドな世界観を漂わせる『スリー・ダコタ』などでも、小気味よいテンポと知的カタルシスを提供し続けています。難解になりがちなテーマを、極上のサスペンスとして仕立て上げるバランス感覚こそが、幅広い層から支持される要因です。