犯罪学や社会学の視点において、起訴猶予制度は「ダイバージョン(Diversion:司法手続きからの逸脱・早期回避)」と呼ばれる極めて重要な社会政策的機能を担っています。犯罪者を一律に法廷へ引きずり出し、前科という烙印(スティグマ)を押してしまうと、社会復帰が著しく困難になり、かえって再犯率を高めてしまうという「ラベリング理論」の弊害を防ぐためです。加害者に自省を促しつつ、被害者には示談金による実質的補償を届け、社会秩序を穏便に修復する「修復的司法」の観点からも、起訴猶予は極めて合理的と言えます。
しかし、弁護実務の視点に立つと、すべての人が無条件に起訴猶予を目指すべきとは限りません。自身の状況に応じた明確な判断基準を持つ必要があります。
起訴猶予の獲得に全力を注ぐべき人
- 事実関係に争いがない人:自らの非を認めており、一刻も早く日常生活や職場へ復帰したい初犯のケース。速やかに被害者へ誠意を示し、示談を取りまとめることが人生再建の最短ルートとなります。
- 身柄拘束による失職リスクが高い人:公務員や一般企業の会社員など、起訴されて裁判が長期化すれば懲戒解雇が不可避な立場にある場合、起訴猶予による即日釈放と前科回避は死活問題です。
起訴猶予の受け入れに慎重になるべき人
- 無実・冤罪を主張している人:起訴猶予は「犯罪を行った証拠が十分にある」ことを前提とした処分です。身に覚えのない容疑で逮捕されたにもかかわらず、釈放されたい一心で虚偽の自白をし、起訴猶予を受け入れることは極めて危険です。前歴として記録が残り、事実上の犯人扱いを受け入れる結果となるため、無実を争う場合は起訴猶予ではなく「嫌疑なし」「嫌疑不十分」を目指して徹底的に否認を貫く覚悟が求められます。