毒餌を仕掛けてもネズミが口にしない、あるいは効果が出ない背景には、ネズミの生態学的特性と薬剤耐性の2つの側面が存在します。現場調査データおよびペストコントロール技術者の知見をもとに、そのメカニズムを紐解きます。
家屋に侵入するネズミの代表格であるクマネズミは、「新奇恐怖症(ネオフォビア)」と呼ばれる強い警戒習性を持っています。生活圏内に見慣れない物体や新しい餌が突然出現すると、数日から1週間以上は一切近寄らず様子を伺います。人間の手の匂いが付着した毒餌や、いつもと違う場所にポンと置かれた薬剤は、彼らにとって警戒対象でしかありません。
もうひとつの大きな要因が、室内に豊富に存在する「他の餌」です。キッチンに残された生ゴミ、仏壇の供物、ペットフード、さらには観葉植物の種子や石鹸まで、ネズミはあらゆるものを摂食します。毒餌よりも安全かつ嗜好性の高い食料が周囲にあれば、あえて怪しい薬剤を食べる理由がありません。
さらに見逃せないのが、「ワルファリン抵抗性」を持つ個体群(通称:スーパーラット)の蔓延です。従来の累積毒殺鼠剤(クマリン系ワルファリンなど)は、複数回摂取させることで徐々に血液凝固を阻害し内出血死させる仕組みですが、肝臓内の酵素変異によりこの毒を無毒化する個体が増加しています。東京都心部や大都市圏の調査では、捕獲されたクマネズミの80%以上がスーパーラットであったとする研究報告もあり、古いタイプの殺鼠剤では致死量に達しない現実があります。