宇多田ヒカルの映像表現を語るうえで、前夫でもある紀里谷和明氏の存在を外すことはできない。紀里谷氏が構築した世界観は、緻密に計算されたセットやCGをフル活用した、圧倒的で壮大な大作主義が特徴だった。一方で、末田氏が提示したアプローチは極めて対照的であった。
末田氏のカメラは、圧倒的な「距離の近さ」を誇る。人工的な美しさを構築する紀里谷スタイルに対し、末田氏は日常のふとした表情や素顔のゆらぎを切り取ってみせた。この二人の映像監督が魅せたコントラストは、宇多田ヒカルという不世出の歌姫の多面性を引き出し、シーンに深いインパクトを与えた。