名古屋名物として親しまれるまるは食堂のエビフライを手にした誰もが、まずその規格外の大きさ(サイズ)に目を見張ります。一般的な洋食店や居酒屋で提供されるエビフライが12〜15cm程度であるのに対し、まるは食堂のエビフライは全長約18〜20cm、胴回りは大人の親指をゆうに超える太さを誇ります。しかし、この料理が真に称賛されている理由は、単なる視覚的なインパクトにとどまりません。
最大の衝撃は、一口食べた瞬間に訪れます。巷に溢れる大振りなエビフライにありがちな「厚い衣で身をカサ増しした見せかけ」が一切ないのです。極限まで薄く均一にまとわせた生パン粉の内側には、端から端までぎっしりと引き締まったエビの身が詰まっています。箸で中央を割ろうとしても、跳ね返るような弾力に阻まれるほどで、エビ特有の繊維感と瑞々しい肉汁がダイレクトに舌へ伝わります。
この誠実極まりない仕立ての背景には、創業者である故・相川うめ氏(親しみを込めて「うめさん」と呼ばれる)の強固な信念が存在します。昭和25年、知多半島豊浜の地で鮮魚の行商から身を起こしたうめさんは、自著や生前のテレビ取材において「嘘をついた商売をしてはいかん」「お客さんに喜んでもらうために、損して得取れ」と幾度となく語り遺しました。質の悪い小エビを衣で太らせて高く売るような欺瞞を徹底的に嫌い、確かな目利きで仕入れた極上の大型エビをまるごと揚げる職人魂は、創業から70年以上が経過した2026年の厨房にも寸分違わず受け継がれています。
仕入れにおいては、長年の信頼関係で結ばれた独自のルートを通じ、身が詰まり旨味の濃い良質な大型エビを厳選。鮮度落ちを防ぐ徹底した温度管理のもと、手作業で筋を伸ばし、余分な水分を抜きながら旨味を凝縮させる下処理が施されています。この手間暇を惜しまぬ工程こそが、かぶりついた瞬間に衣が剥がれ落ちることなく、身と衣が一体となって至福の食感を生み出す科学的根拠となっています。