庭木としての山茶花や椿を愛でる上で、避けて通ることのできない暗部が「チャドクガ(茶毒蛾)」の存在です。ツバキ科ツバキ属の植物を宿主とするこの害虫は、造園関係者やガーデナーの間で最も恐れられている毒虫のひとつであり、日本皮膚科学会などの医療現場からも頻繁に注意喚起がなされています。
チャドクガの幼虫(毛虫)は、1頭あたり数十万本から数百万本におよぶ微細な「毒針毛(どくしんもう)」を全身にまとっています。厄介なのは、毛虫を直接触らなくても、風に乗って飛散した肉眼では見えない毒針毛が肌に触れただけで、激しい痒みとアレルギー性の発疹(毛虫皮膚炎)を引き起こす点です。さらに恐ろしいことに、この毒針毛は幼虫が脱皮した後の抜け殻や死骸、卵の塊、成虫の羽にまで残留し、数年間放置されても毒性を失いません。
実際に、街並みの美観を保つ目的で生け垣に山茶花を植えたものの、管理を怠った結果チャドクガが大発生し、近隣住民の洗濯物に毒針毛が付着して深刻な地域トラブルに発展した事例は全国で後を絶ちません。庭木の剪定を請け負うプロの職人であっても、「チャドクガの発生期である5〜6月と8〜9月のツバキ・サザンカの手入れは、完全防護服を着用しなければ命取りになる」と証言するほどです。
もし自宅の庭に山茶花や椿を導入するのであれば、冬の間に葉の裏を丹念に点検して黄色いビロード状の卵塊を葉ごと摘み取って処分する、あるいは初夏にオルトランなどの適切な薬剤を定期散布するといった、責任ある予防管理体制が必須条件となります。