美しく芯のある歌声を聴いたとき、多くの人が「遺伝や生まれつきの体質によるものだろう」と考えます。耳鼻咽喉科の音声専門医や音響工学の専門家によると、確かに歌が上手い人の声帯と骨格には、発声において有利に働く物理的特徴がいくつか確認されています。
まず声帯そのものに着目すると、歌が上手い人は声帯粘膜の柔軟性と弾力性が非常に高く、声帯同士がピタリと合わさる「閉鎖力」のバランスが均一です。声帯の長さは男性で平均17〜21mm、女性で12〜17mm程度とされていますが、プロシンガーの喉をファイバースコープで観察すると、低音から高音へ移行する際に声帯の薄さや振動面を無駄なくコントロールできています。無駄な息漏れがなく、呼気エネルギーが効率よく100%近い音響エネルギーへと変換されるため、力んでいないのに遠くまで通る声が鳴り響くのです。
一方、骨格に関してはどうでしょうか。よく「顔が大きい人や首が太い人は声が良い」と言われますが、核心は骨そのもののサイズよりも「共鳴腔(咽頭腔・口腔・鼻腔)」の空間確保にあります。歌が上手い人は、発声時に軟口蓋が自然に引き上がり、喉頭(喉仏)が過度に上がらずリラックスした位置を保てる骨格的ゆとりを持っています。つまり、アコースティックギターの空洞が豊かな響きを生むように、体内空間を共鳴板として最大限に活用できる構造が備わっているわけです。
では、歌が上手い人 生まれつき 理由のすべてが遺伝で片付くのかといえば、決してそうではありません。音声医学の臨床研究でも、骨格の優位性は全体の3割程度に過ぎず、残りの7割は「聴覚フィードバック(自分の声を耳でモニターし瞬時に筋肉を微調整する神経回路)」の発達と、幼少期からの発声模倣の蓄積によって後天的に形作られていることが立証されています。