物語の構造はきわめてシンプルでありながら、主人公の内的独白と感覚の描写が極めて緻密に組み立てられています。学校の教科書や読書感想文の復習としても役立つよう、物語の流れと主人公の心のグラデーションを整理します。
【導入:得体の知れない不吉な塊】
語り手である「私」は、かつて心を捉えていた詩や音楽、丸善の舶来品に対する興味を完全に失っています。原因は肺を病み、極度の貧困に追い込まれたこと。彼の心を始終圧えつけているのは、正体不明の「不吉な塊」でした。彼は高級な文化から逃避し、二条通の裏通り、安物の花火や乾びた絵の具が並ぶようなみすぼらしい小店を好んで徘徊するようになります。
【転機:寺町の果物屋と運命の出会い】
ある日、京都の寺町通にある行きつけの果物屋(八百卯)に立ち寄った主人公は、珍しく並んでいたレモンを1個買い求めます。手掌(てのひら)に伝わる心地よい冷たさ、握りしめたときの重み、爽やかな酸の香り。その物理的な冷涼さが、病気による熱っぽい彼の肉体と憂鬱な精神を劇的に慰めていきます。
【展開:丸善への潜入と息苦しさの再燃】
手の中に「良き相棒」を得た主人公は、長らく足が遠のいていた丸善へふらりと足を踏み入れます。しかし、いざ店内に入ると、かつての憧れだったはずの美術全集が重苦しくのしかかり、息苦しさと憂鬱が再び彼を襲います。棚から画集を次々と引き抜き、床に広げてみますが、胸の高鳴りは戻りません。
【結末:レモンの据え付けと奇妙な勝利感】
失望した主人公は、積み重なった画本の山の上に、ポケットから取り出したレモンをそっと置きます。その瞬間、埃っぽい本の世界がレモンを中心に奇跡的な調和を遂げます。主人公は「これを時限爆弾に見立てて逃げ出したら面白い」という突拍子もない空想を抱き、そのまま店外へ脱出。京の街を歩きながら、丸善が大爆破される幻想に痛快な快感を覚えるのでした。