二輪車で時速300kmを超える世界とは、一体どのような感覚なのか。報道取材やプロレーサーの証言を検証すると、四輪のレーシングカーとは根本的に異なる、生身の肉体を晒す二輪ならではの過酷な現実が浮き彫りになります。
国内外のテストコースで時速300km超を経験したテストライダーの手記によると、時速250kmを超えたあたりから視界が急激に狭まる「トンネルビジョン現象」が発生します。周辺の景色は激しく流れる灰色の帯となり、焦点は数十メートルから百数十メートル先の一点にしか結べなくなります。さらに強烈なのが、ライダーのヘルメットと首筋を襲う空気抵抗です。時速300kmでの走行風は風速83m/s以上に達し、超大型台風の暴風域をはるかに凌駕します。タンクの上にわずか数ミリでも顎を浮かせれば、強烈な揚力によって首ごと後ろへ引き剥がされそうになるほどの衝撃が加わります。
さらに現場メカニックや愛好家コミュニティ(5ちゃんねる、Reddit、オーナーズクラブ等)の生の声からは、過酷な維持管理の実情が窺えます。タイヤのトレッド面は凄まじい熱と遠心力に晒されるため、超高速走行を数回行うだけでハイグリップタイヤのセンターゴムが急速に摩耗します。サーキット走行でNinja H2Rなどのフルパワーを引き出す場合、タイヤは数時間の走行で交換が推奨され、油脂類の指定交換サイクルも極端に短縮されます。時速300kmの世界は、単にアクセルを捻れば手に入るものではなく、入念な整備体制と莫大な消耗品コストを投じられる者だけに許された領域なのです。