自然界へ野放しにされたヌートリアがもたらす実害は、もはや「景観の違和感」で済むレベルを遥かに超えています。農林水産省が公表する野生鳥獣被害統計によると、ヌートリアによる農作物被害額は年間1億円規模で高止まりを続けており、特に水稲、レンコン、ニンジン、サツマイモなどの水田・根菜類への食害が壊滅的な打撃を与えています。
関西地方の主要産地でレンコン栽培を営む60代の農家は、取材に対して次のように憤りを露わにします。
「春先、植え付けたばかりの若芽を一晩で食い荒らされます。水面下を泳いでやってくるため電気柵も効きにくく、朝起きて畑一面が丸坊主になっていた時の絶望感は言葉になりません。さらに恐ろしいのは、畦(あぜ)の中にトンネルを掘られることです。水を張っても穴から全部抜けてしまい、重機を入れた瞬間に畦が陥没してトラクターが傾いた事故も起きています」(水耕栽培農家の証言)
農業被害にとどまらず、近年最も警戒されているのが水害リスクの増大です。河川堤防や農業用ため池の堤体に網の目のような巣穴を掘り進めるため、大雨による増水時に巣穴から水が浸透し、堤防が決壊する「パイピング現象」を引き起こす危険性が土木工学の専門家からも指摘されています。目に見えない堤防内部の空洞化は、地域全体の防災インフラを根底から揺るがす深刻な脅威となっています。