白雪姫と魔法の鏡を巡る歴史の中で、一般読者に最も衝撃を与える事実が「グリム童話初版における王妃の正体」です。現在流通している多くの絵本やディズニー映画では、王妃は白雪姫の「継母(義理の母)」として描かれていますが、1812年に刊行されたグリム童話初版において、王妃は白雪姫を産んだ「実の母親」でした。
民俗学者たちの研究資料によると、初版のテキストでは実母が我が子の美しさに嫉妬し、森へ連れ出して殺害を命じるという凄惨なプロットが記されています。グリム兄弟が版を重ねる過程(1819年の第2版以降)で実母から継母へと改変された背景には、当時のブルジョワ家庭における教育的配慮がありました。
- 神聖な母性神話の保護:19世紀のヨーロッパにおいて「実の母親が我が子に嫉妬して殺意を抱く」という描写は倫理的に受け入れがたく、キリスト教的家族観に反すると批判されたため。
- 家庭教育への適合:児童向けの読み物として普及させるため、悪意の所在を「家庭外から入ってきた継母」というステレオタイプな悪役に転嫁した。
さらに、原作における王妃の最期はディズニー映画のような崖からの転落死ではありません。白雪姫と王子の結婚式に招待された王妃は、真っ赤に焼けた鉄の靴を履かされ、死ぬまで踊り続けさせられるという過酷な公開処刑によって命を落とします。「鏡」によって美の頂点を渇望した女性は、最も屈辱的で凄惨な肉体の破壊をもって物語から退場させられるのです。