窪塚愛流にとって俳優としての決定的な試金石となったのが、2024年5月に公開された映画『ハピネス』です。嶽本野ばらの同名小説を篠原哲雄監督が映画化した本作で、愛流は実力派女優の蒔田彩珠とW主演を務め、自身初となる映画主演の重責を担いました。
物語は、心臓の病で余命1週間と宣告された女子高生・由茉(蒔田彩珠)と、彼女の残された時間を全力で支えようとする恋人・雪夫(窪塚愛流)の切なくも眩しい青春の日々を描いたヒューマンドラマです。こうした難病純愛モノは、往々にして過剰なお涙頂戴や情緒的なセリフ回しに陥るリスクを孕んでいます。しかし、本作の愛流が見せたアプローチは、徹底して感情の浪費を抑えた極めて抑制的なものでした。
映画関係者や試写会に参加した映画ライターが口を揃えて賞賛したのは、恋人の過酷な告白を初めて受け止めた瞬間の「間」と「視線の動揺」です。声を荒らげて泣き叫ぶのではなく、喉の奥に言葉を詰まらせ、現実を受け止めきれない少年の脆弱さをそのまま身体表現へと落とし込んでいました。若手屈指の演技派として国内外で評価の高い蒔田彩珠の圧倒的な推進力に対し、愛流はそれを受け止める「器」としての静かな存在感を発揮し、共演によって生じた瑞々しい化学反応は劇場の空気を一変させました。
制作発表時のインタビューで愛流は、「演じようとするほど雪夫から遠ざかってしまう感覚があった。現場で蒔田さんの目を見て、ただそこで生きることに集中した」と述懐しています。作為的なテクニックではなく、相手の芝居に呼応する純粋なレスポンスの鋭さこそが、彼の持つ最大の資質であることを証明した瞬間でした。