お尻の奥がズキズキと痛むとき、多くの人がやってしまいがちなのが「痛い場所をテニスボールやマッサージガンで強くグリグリと押し潰す」という行為です。ネット上では手軽なセルフケアとして紹介されがちですが、これこそが臨床現場で最も警告されている危険な誤解です。
もし痛みの根底に梨状筋症候群や坐骨神経痛がある場合、炎症を起こして過敏になっている坐骨神経の上から強い圧迫を加えることになります。結果として神経組織を機械的に挫滅させ、翌朝になって足に力が入らなくなったり、激痛で歩行困難に陥ったりする重大な医療トラブルが多発しています。坐骨結節部滑液包炎の場合も同様で、炎症を起こしている滑液包を硬いボールで刺激すれば、袋がさらに腫れ上がり、痛みが長期化する原因にしかなりません。
また、「冷やすべきか温めるべきか」という判断についても誤った情報が氾濫しています。急性期で熱感を伴う激痛が走っている段階で長風呂に入って温めると、血管が拡張して神経浮腫が悪化し、かえって痛みが激甚化します。逆に、数週間以上続いている慢性的な筋拘縮に対して過剰なアイシングを施せば、局所の血流が途絶えて組織の修復が停滞します。
もうひとつの深刻な盲点が、整形外科と整骨院の違いを理解しないまま通院先を選択してしまう点です。痛みに耐えかねて近所の整骨院(接骨院)や整体へ駆け込む人は多いですが、整骨院の先生は「柔道整復師」という国家資格者であり、医師ではありません。したがって、レントゲンやMRIによる確定診断を下すことや、消炎鎮痛剤の処方、神経ブロック注射を打つことは法的に一切認められていません。
骨盤の歪みや単なる筋疲労であれば施術で緩和することもありますが、背景に腰椎椎間板ヘルニアや脊椎腫瘍、重度の仙腸関節炎が存在する場合、無資格な強い骨盤矯正(いわゆるボキボキ鳴らす施術)によって病態が決定的に悪化するリスクを孕んでいます。原因が判明していない段階で、お尻の骨が痛い何科を受診すべきかと迷ったならば、初診の選択肢は「整形外科」一択であることを肝に銘じる必要があります。