豚肉の断面がピンク色に見える現象には、肉に含まれる色素タンパク質「ミオグロビン」の熱変性が深く関わっています。ミオグロビンは約65℃を超えると褐色(変性ミオグロビン)へと変化しますが、60℃〜63℃前後の低温でじっくり火を通した場合、タンパク質が変性しすぎず、赤褐色に変化しないまま鮮やかなピンク色を保ちます。これが、近年の低温調理とんかつがロゼ色に美しく仕上がる科学的理由です。
厚生労働省が定める食肉の加熱殺菌基準では、豚肉の中心温度を75℃で1分間以上、またはこれと同等以上の効力を有する方法(中心温度63℃で30分間など)で加熱することが義務付けられています。適切な温度管理のもとで時間をかけて熱を浸透させたロゼ色のとんかつは、食中毒菌が十分に死滅しているため安全に味わうことができます。
一方、高温の油で表面だけが急激に揚がり、中心まで熱が届いていない「単なる生焼け」は全くの別物です。中心温度が50℃台以下にとどまっている場合、有害な病原体は死滅しておらず、極めて高い感染リスクを抱えたままとなります。