松村の生きた気骨と人間味を肌で感じられる場所が、故郷である富山県南砺市福光に佇む松村謙三記念会館です。静謐な敷地内に立つこの施設には、松村が遺した書や愛用した調度品、そして激動の外交交渉を物語る一次資料が大切に保存されています。
展示の中でひときわ来訪者の目を引くのが、周恩来から贈られた中国の伝統的な春蘭(シュンラン)にまつわる記録です。松村は無類の蘭愛好家としても知られ、日本愛蘭会の会長を務めるほどの情熱を注いでいました。殺伐とした政治交渉の場にあっても、松村と周恩来は蘭の気品や育て方について夜更けまで語り合ったといいます。文化と美意識を通じた相互尊重があったからこそ、国家間の政治的不信を突破する強靭な信頼が生まれたのです。
館内に掲げられた松村の直筆による「政治は信なり」「国を興すは教育にあり」という扁額の前に立つと、妥協のない信念の重みが真っ直ぐに伝わってきます。地元・富山県民の間でも「福光の誇る大先達」として世代を超えて敬愛されており、学校教育や地域活動の場でもその精神が今なお語り継がれています。
また、松村家の系譜と政治的遺伝子も後世へと引き継がれています。長女の歌子氏の夫となった松村武重弁護士を経て、孫にあたる参議院議員の松村祥史氏は国家公安委員会委員長などの要職を歴任しました。中央政界において派手なアピールを控えつつ、着実に実務を積み重ねる姿勢には、祖父・謙三の清廉潔白な気風が色濃く息づいています。