野望の実体化を担ったのが、ドイツ銀行を中心とする資本団が推進した「バグダード鉄道建設プロジェクト」だ。アナトリア高原の険しいトロス山脈を穿ち、灼熱の砂漠地帯を突き進む工事は、当時の最先端土木技術を結集した空前の巨大事業だった。機関車が砂嵐を切り裂いて走る光景は、帝国の技術的優越を世界に見せつける最高のシンボルとなった。
だが、現場は過酷を極めた。資金難、現地部族の襲撃、過酷な労働環境による夥しい犠牲者。さらに、鉄道の敷設権をめぐってフランスやロシアの金融資本も割り込み、巨額の利権を巡る水面下のスパイ合戦が繰り広げられた。インフラ建設という近代化の美名のもとで、中東の領土と資源は列強の冷徹な投資ゲームの盤上へと引きずり込まれていったのだ。