現在、日本の園芸農業において中核を担っているのが、ビニールハウスやガラス温室を利用する施設園芸農業の仕組みです。露地栽培のように降雨や突発的な寒波に左右される脆弱性を排し、植物の光合成効率を人為的にコントロールする技術体系が確立されています。
最先端の施設園芸では、単に雨風をしのぐだけではありません。ハウス内の環境データをセンサーで常時監視し、コンピューターがアクチュエーターを制御する統合環境制御が標準装備となっています。
- 飽和差と温度の最適化:作物の蒸散を促すため、暖房機やヒートポンプ、遮光カーテンを連動させて最適な気温と湿度差を維持。
- 炭酸ガス(CO2)施用:光合成が活発化する日中にハウス内のCO2濃度を意図的に高め(400ppmから800〜1,000ppm程度)、作物の肥大を促進。
- 日射比例給液:日照センサーと連動させ、作物が光を浴びた量に応じて培養液(肥料を含んだ水)を数滴単位で点滴灌水。
愛知県で大規模トマトハウスを営む40代の生産者は、経営の過酷さと手応えについて取材に対し次のように吐露しています。
「外からは優雅なハイテク農業に見えるかもしれませんが、現実は1台数千万円する温室の減価償却と、冬場の重油代・電気代の請求書との戦いです。栽培パラメーターを0.5度狂わせるだけで収穫量が数トン単位で落ち込み、一気に赤字へ転落します。植物生理学の論文を読み込み、日々の数値を睨み続ける作業は、農業というより精密機械工場のオペレーションに近い感覚です」
生産者の証言が物語るように、施設園芸農業は自然任せの営みではなく、極めて工学的な知識とリスクマネジメントを求められる現場へと変貌を遂げています。