枕のお手入れを始めるにあたり、最初に行うべき行動は洗剤を手に取ることではなく、側面に縫い付けられた「洗濯表示タグ」の確認です。2016年に改定された新JIS表示において、「洗濯桶に水が入ったマークにバツ印」が付いている場合、家庭での水洗いは一切できません。この警告を無視して水に浸けてしまうと、構造破壊を引き起こして元に戻らなくなります。
寝具専門各社の取材データでも強調されている通り、枕を洗ってはいけない決定的な理由は、中材の物理的・化学的特性に起因します。代表例が「低反発ウレタン」です。ウレタンフォームは水分子と結合すると「加水分解」という劣化反応を起こし、スポンジのような弾力性を永久に失ってボロボロの粉末状に崩壊します。一度濡れたウレタンは内部の極細気泡に水分を抱え込み、日本の通年湿度環境では数週間干しても完全に乾きません。結果として内部で黒カビが爆発的に増殖します。
また、古くから親しまれている「そばがら枕」も水洗いは絶対厳禁です。天然の穀物殻であるそばがらに水分が浸透すると、乾燥しきらずに腐敗し、チャタテムシなどの害虫を大量発生させる要因となります。枕を長持ちさせる第一歩は、「洗える素材」と「洗えない素材」を論理的に切り分けるリテラシーを持つことに他なりません。