イップスを巡る議論の中で、最も危険かつ放置されがちな盲点が「局所性ジストニア(フォーカル・ジストニア)」との混同です。現場の指導者がすべてを「メンタルの弱さ」で片付けてしまうことで、取り返しのつかない神経障害を見逃してしまう悲劇が後を絶ちません。
局所性ジストニアとは、脳の運動制御を司る神経回路に器質的な異常が生じ、特定の動作をしようとしたときだけ無意識に筋肉の異常収縮や硬直、指の巻き込みが起こる神経内科的疾患です。長時間の極端な反復トレーニングによって、脳の体性感覚野において「人差し指」と「中指」の担当領域の境界線がぼやけ、癒着してしまうことなどが原因と解明されています。
「自宅の部屋で一人で壁当てをしていても手が固まる」「リラックスしていても指が勝手に曲がって伸びない」という場合は、気合やメンタルトレーニングで解決できる領域を越えています。一刻も早くジストニアの診療実績が豊富な神経内科を受診することが、選手生命を守る防波堤となります。