「風がゼロではないが、最大風量にしてもティッシュ1枚すら吹き飛ばない」という場合、電気系統の断線とは異なる物理的な閉塞が起きている可能性を疑う必要があります。
第一の容疑者は、最も身近な消耗品であるエアコンフィルター目詰まりの症状です。走行環境にもよりますが、フィルターの交換推奨サイクルは通常1年または走行1万キロとされています。これを3年以上放置した車両のフィルターを取り出すと、埃、排気ガスの微粒子、落ち葉の破片、虫の死骸、さらにはペットの毛が絨毯のように堆積し、空気の流路を完全に塞いでしまっています。ブロアモーター自体は必死に高速回転しているため、風切り音やモーターの唸り声だけが車内に響き渡り、吹き出し口からは微風しか出てこないという典型的な窒息状態に陥ります。
より深刻かつ高額なトラブルとなるのが、冷却器そのものが風を遮断するケースです。冷媒の気化熱で空気を冷却するエバポレーターは、稼働中に大量の結露水を発生させます。ここにフィルターをすり抜けた微小な埃が付着してドロドロのヘドロ状になり、フィンの隙間を物理的に目詰まりさせることがあります。
さらに、温度調節弁(エキスパンションバルブ)の不具合によってエバポレーターが過冷却状態に陥ると、結露水が瞬時に凍結してフィンの表面全体に分厚い氷の壁を形成してしまう「アイシング現象」が発生します。エアコンを使い始めて30分ほど経過すると急に風が出なくなり、停車してエアコンを数十分切っておくと氷が溶けて一時的に風が復活する――という奇妙な挙動を示す場合、このエバポレーター周辺のトラブルが疑われます。冷媒漏れやフィン閉塞に伴うエバポレーター故障の交換費用は、車両内部の深部を分解する必要があるため、ユーザーにとって極めて重い出費となります。