解剖学の教科書を開くと、上肢帯の運動を語る上で必ず登場するのが「肩甲胸郭関節(けんこうきょうかくかんせつ)」です。厳密に言えば、ここは骨と骨が関節包や滑膜で包まれた解剖学的関節ではなく、胸郭後壁と肩甲骨前面の筋群(前鋸筋や肩甲下筋)が擦れ合って滑る「機能的関節(生理学的関節)」に分類されます。
上肢帯の基本的な運動方向は、以下の6つに整理されます。
- 挙上(きょじょう)と下制(かせい):肩をすくめる上下の運動。
- 外転(がいてん=前引)と内転(ないてん=後引):肩甲骨を背骨から離す(背中を丸める)、背骨へ引き寄せる(胸を張る)運動。
- 上方回旋(じょうほうかいせん)と下方回旋(かほうかいせん):腕を上げる際に肩甲骨の関節窩が上を向く回転、元の位置に戻る回転運動。
腕を真横や前から真上(屈曲・外転180度)まで挙げる際、肩関節(肩甲上腕関節)だけで腕が動いているわけではありません。臨床やスポーツ現場で極めて重視される「肩甲上腕リズム(Scapulohumeral rhythm)」の法則が働いています。
腕を外転させていく過程において、腕の挙上角度全体のうち、肩甲上腕関節と肩甲胸郭関節の動く割合はおよそ「2対1」です。つまり、腕を180度バンザイしたとき、肩関節が動いているのは約120度であり、残りの60度は肩甲骨の上方回旋によって生み出されています。
さらに細かく見ると、最初の外転30度(セッティングフェーズ)では肩甲骨の動きは不安定ですが、30度を超えると肩甲骨の上方回旋が本格化し、それに伴って鎖骨が胸鎖関節を軸にして約30度後方へ回旋します。肩甲骨が適切に動いて関節窩の向きを上方に調整し続けなければ、上腕骨の大結節が肩甲骨の肩峰と衝突し(インピンジメント)、腕は90度を少し超えたあたりで物理的に引っかかって持ち上がらなくなります。